火花 (著)又吉直樹 感想

この本を読んでみて、一番印象に残っているのは、「神谷さんはいないいないばあを知らない」という部分です。

この作品は、主人公であり語り手である、若手漫才コンビスパークスの徳永と、彼が最も面白い男だと尊敬してやまない先輩である、おなじく若手漫才コンビであるあほんだらの神谷との、笑いに対する姿勢や、芸人としての在り方の対比で書かれています。
それを簡単に書いてみると、徳永はどういった風にネタを構成すれば笑いが取れるかというアプローチをするタイプの芸人であり、神谷は自分の面白いと思ったことをやり続けるタイプの芸人です。

しかし、読み進めて行くと、神谷は「面白いと思ったことをやり続ける」ような人間ではなく、「それしかやり方を知らない」人間であることが明らかになっていきます。

それが一番よく表れていると感じたのが、先程書いた、「神谷さんはいないいないばあを知らない」という部分です。
作品の中に、泣いている赤ちゃんを2人があやそうとするシーンがあるのですが、徳永がいないいいないばあをするのに対し、神谷は真剣に自作の蠅川柳なるものを披露し、笑わせようとします。
赤ちゃんが言葉を理解していないであろうという感覚を、神谷は全く持っていないのです。

徳永からしてみると、そんな感覚を持っている神谷は生まれながらの芸人であり、尊敬の対象であり、どれだけ自分がお客さんに好まれるような漫才を研究して、笑いを取って、テレビに出られるようになっても、追いつくことの出来ない歴然とした差があると感じている雰囲気が、作品から痛い程よく伝わってきました。

もしも、徳永が神谷と出会っていなければ、このような苦しみもなく、ひょっとしたらコンビを解散し、お笑い芸人を引退することも無かったのではないかと感じる反面、出会ってしまったことで、スパッと引退することも出来たのかなとも感じ、読み終えた後は、悲喜こもごも、色々な感情に襲われました。