光圀伝 (著)冲方丁 感想

緻密ながら力強い文章、それぞれ個性が光るキャラクターたち、芯の通ったストーリーに圧倒されました。「水戸黄門」でおなじみの徳川光圀の生涯を通して光圀の「大義」が描かれていく一代記で、物語は隠居した光圀の回顧録という形で綴られます。彼の幼少期からその晩年までに起きた印象深いエピソードがいくつも語られていくのですが、冒頭に起きたある大事件を軸として物語が進行していく事と、各々のエピソードが後年の徳川光圀がどう作り上げられたのかという事の答えとなっていく形を取るためか、あまり散らかった印象はありません。そのおかげか、読み応えのある文章量と堅い題材でありながら飽きは感じませんでした。印象に残ったのは幼年期の光圀と兄・頼重、そして父親との関係です。後年の名君としてのイメージ、荘厳で理性的な冒頭の語りからは想像もつかない暴れ者が後の徳川光圀となっていく展開に驚き、すぐに引き込まれました。ここで描かれる兄との対話、父への恐れ、自分自身が求めるもの、周囲に求められるものというテーマがその後の光圀にとって大義の原点となり、結末に向けての大きな流れの原動力ともなっていて、続く青年期と水戸藩主時代がひときわ魅力ある物語になります。克明に描き出される水戸徳川家の嫡子としての光圀、抱える苦悩を学問と詩作にぶつける型破りな若者としての光圀、名君・徳川光圀公としての光圀、これらそれぞれの大義が冒頭で語られる事件に収束する、という構成は見事です。熱にうかされたように夢中で読みましたが、読後は穏やかな、しかし満ち足りた気分になりました。