サラバ! (著)西加奈子 感想

西加奈子さんの著書で、何度かテレビ番組で紹介された事もある作品です。主人公・今橋歩の人生が、「僕」という一人称の視点で語られてゆきます。
ある種の自伝のようなこの物語がどのような結末を迎えるのか、読んでいる段階では予測がつきませんでした。自伝は基本、偉業を成した有名人や偉人のものであるからこそ、その生涯に触れて感じ入るところがあるのです。しかし、創作のキャラクターのものとなると、普通に考えればほとんど感情移入できず、最悪「だから何だ」で片付いてしまいます。作品としての面白さはどこにあるのか?そんな事を考えながら読んでいました。
ですが、そのような読み方をしていられたのは最初のうちだけでした。主人公を取り巻く環境が緩やかに変動し、関わる人々の心情が繊細に描かれ、迷いながら成長し、やがて真実に辿り着く。一度ダメになってしまった主人公が、大切なものを見つけ、自分を信じて歩き出す。苦しくて美しいこの物語の世界に、気付けば時間を忘れて入り込んでいました。
家族や家庭環境に振り回される。気の合う友人たちと充実した学生生活を送る。社会人として足を踏み出す。何か小さなきっかけで綻びが生じる。自分を見失って挫折する。全て、誰にでも起こりうる出来事です。どうして良いのか分からなくなった主人公の葛藤がとてもリアルで、自分もいつかこうなってしまうかも知れないと、恐怖すら感じました。そこから、過去に出会ってきた人々から言葉を受け取り、自分を信じる勇気をもらった主人公の姿がとても眩しくて、泣きながらの読了となりました。
西さんの作品を読み終えると、決まってしばらく動けなくなります。余韻に浸るというのか、何と言うか。あの感覚を言葉で表す事は、私にはできません。